冬——魔都東京には、妖気の風が吹いていた。隙間風の吹く部屋で目覚めた鬼太郎は、かじかんだ手をこすり合わせながら、作業着に袖を通した。色あせた灰色のつなぎだ。彼の体はすでにこの作業着に慣れきっていた。やかんを火にかけ、ふと鏡を見ると頭のてっぺんが一本立ち上がっている。無論寝癖ではない。これは、妖気だ。
そう思った瞬間、窓ガラスの向こうに白くはためくなにかが見えた。駆け寄って窓を開ける。そこには今まで一度も姿を現さなかったいったんもめんがいた。
「鬼太郎、大変じゃ。渋谷の町がすごいことになっとる!」
「なにっ?」
「お願いじゃ、わしについてきてくれ、この騒ぎはお前にしか止められない」
一瞬の躊躇が頭をよぎる。ケンシロウの顔……はじめて感じた人間同士の絆。
しかし鬼太郎は首を振った。
「いったんもめん、のせていってくれ」
「よしきた〜」
いったんもめんは身をひるがえして畳の焼けた六畳間に入り込む。鬼太郎はすばやくその背中に乗ると、目を瞑って想った。さよなら、人間だった俺——。
東京の上空に差し掛かると、渋谷の暗雲は遠目にもわかる。どんよりした紫に垂れ込めた雲。混乱の気配がする。スピードを上げるいったんもめん。俄かに視界にもやがかかり始め、急降下して降り立ったのは、渋谷TSUTAYAの屋上だった。
眼下のスクランブル交差点では、すでに妖怪たちに洗脳された人々がいさかいあっている。鬼太郎は直感的に嗅ぎ取った。この世を征服しようとする大きな力が働いているのだ。
なぜ、今日まで気づかなかった——彼は自分を責めた。そこへ、足元に長い鞭が飛ぶ。反射的に高くジャンプし、それが戻っていく先を見上げる! そこにいたのは、なんとケンシロウだった。
「ケンシロウ! お前だったのか!」
きっとにらみつける鬼太郎に、にやりと笑ってケンシロウは言い放った。
「鬼太郎。自分も甘ちゃんやな。なんで俺が自分に近づいたか、ずっときづかへんかったもんな」
鬼太郎は顔をゆがめた。
「鬼太郎、これを着るんじゃ!」
聞きなれた父の声。
「父さん!」
そこに投げられた縞模様のちゃんちゃんこ。ずっと拒んできたそれを作業着の上にまとうと、髪をケンシロウに向け、自らの髪の毛を針に変えて攻撃する。着地した場所には、誰が用意したのか下駄。すっと足になじむ感覚。
稲光が照らす渋谷の上空。ふたりは攻撃をくりかえしては交し合う。互角だ。見守る仲間たちも息を呑む。けれど、負けるわけにはいかない。自分にはこの人間界を守る使命がある。鬼太郎は、懇親の力を込めて右足を振り上げた。下駄が飛ぶ—ーそこに低い声が、地響きのように鳴り渡った。
「ケンシロウ、手加減をするな!」
そこには黒い影を背負ったぬらりひょんの姿があった。その手には天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)が握られている。
「ぬらりひょん! お前、地獄の底に行ったのか!」
鬼太郎の問いに、ぬらりひょんは薄気味悪く微笑みながら言った。
「なぜわしがケンシロウを派遣したか、まだわからんのか。お前を人間界にとどめ、この天叢雲剣を手に入れたかったからだ。お前は愚かだ。妖怪は人間になどなれない。そんな価値などないのだよ」
鬼太郎は苦々しい顔をした。脳裏でくりかえす平凡だけれど幸福な日々。何がわかる。握り締めた手のひらに力を込める。目を開けた先には、天叢雲剣が迫っていた。
「危ない!」
眼前に大きな影が飛び込んでくる。その力で倒れこむ鬼太郎。身をかばったその相手は、ケンシロウだった。
「ケンシロウ!」
その胸には深々と剣が突き刺さり、傷口からは確かに赤い血が流れていた。鬼太郎は衝撃に身を震わせたまま、ケンシロウを抱き寄せ、頬を叩く。
「死ぬな、死ぬなケンシロウ!」
「鬼太郎……」
ケンシロウは鬼太郎の腕の中で小さく震えながら、薄く目を開けた。
「自分、価値ないモンやないで。俺はお前といて、楽しかった。人間としてずっと一緒に……」
ケンシロウはがくりと頭を後ろにたれた。腕にかかるケンシロウの頭の重み。こんなかたちで、出会いたくなかった。確かに俺たちには、絆があった——。
「美しいことよの」
低く響く声。鬼太郎はケンシロウの胸から天叢雲剣を抜くと、ぬらりひょんに向き立った。
「俺は、お前を許さない!」
足元に流れ出すケンシロウの血。それを目に焼きつけると、鬼太郎はビルを飛び、かかりくる妖怪たちを切りつけ続けた。これは復讐だ。俺のじゃない。俺たちの絆の復讐なんだ。何百もの妖怪たちに髪の毛針の雨を降らし、下駄を投げつける。だがその目はぬらりひょんを見据えていた。
ふいに、高くジャンプする! その跳躍は、彼が今まで見せたことのない高さとすばやさを誇っていた。驚きに目を開き、ひるむぬらりひょんの頭上、剣を下に向けて降り立つ! そしてその中心に天叢雲剣は突き刺さった。
かくして、歴史に残る戦いは幕を閉じた。帰路をゆく鬼太郎の表情には、今までにない精悍な光があった。ひとり先を歩く彼に駆け寄ろうとする猫娘。それを、目玉の親父が引きとめた。
「そっとしといてやれ」
鬼太郎は妖怪の世界に戻ってきた。
「鬼太郎・ザ・ミュージカル—絆の墓標」<完>
-------------------------------
鬼太郎 堂本光一
ケンシロウ 堂本剛
テーマソング
「ゲゲゲの鬼太郎ーNARA FUN9 mix」ENDLICHERI☆ENDLICHERI
プロデュース KinKi Kids
-------------------------------
以上はすべてフィクションです。
すべては高橋さんと先日話していた妄想をもとにしています。
最近のコメント